ご訪問ありがとうございます。こんにゃろうです。
秋も深まって参りましたね。気温の差が昼夜激しくなってまいりました。受験生の方々、体調など十分気をつけて下さいね。
さて、今回は、臨床心理士指定大学院の入試の「最も!」といっていいほど難題である事例問題について書いていきたいと思います。
事例問題とは?
ある具体的なクライエントの事例が提示され、それについての臨床像や見立て、その見立てに必要な検査、アセスメントの留意点、どのような援助を行うか、等が問われる問題です。
例をあげます。
(問題例1)
事例:小学校2年男児。幼児期はやや落ち着きがない点を指摘されたが他には特に問題なく過ごした。小学校入学後、2年生になってから学習上のつまずきが目立っている。教科書の音読ができない。練習を繰り返しても漢字テストでは10点満点中2-3点しか取れない。書字は鏡文字や書き誤りが多く判読が難しい。粗大運動、微細運動ともに不器用であり、体育や楽器演奏にも苦慮している。
本事例の学習上のつまずきの原因を明らかにし、心理・教育的支援を行うために必要な(1)臨床心理学的アセスメントの方法、および(2)支援方法を、予想される障害との関連でいくつかの観点から考察しなさい。(白百合女子大学院 文学研究科 発達心理学専攻 2010年度)
事例問題を出題する大学院は毎年出題することが多いため、過去問を必ずチェックして、対策しておきましょう。
何故、事例問題は難しいのか?
問題をみると、こんな問題解けるんだろうか、、と不安になりますよね。。
事例問題が難しい理由は2つあると思います。
統合性
事例問題を解くためには、
基礎知識を身に付ける⇒それらを総動員してまとめる⇒その事例と関連付ける
という作業が必要です。つまり知識が知識で終わっていてはいけないということです。
臨床心理学の概論書を開くと様々な章にわかれています。心理療法、心理査定、地域援助、異常心理学。。。。。これらの知識はすべて、クライエントの支援のために使われるものであり、膨大な心理学の研究の最終的にいきつくところは、クライエント支援なのです。
生のクライエント支援に関する事例問題は、すべての知識を統合して解答しなければいけないところに難しさがあります。
実践性
さらに、統合した知識を実際のケースと繋げなければいけない。臨床心理学は実践の学ともいわれます。要するに、知識は実践に役に立たなければ意味がない。
しかし、多くの受験生は実践などしたことがない。。。査定もカウンセリングも、心理療法も地域援助もしたことないです。
そんな状態で事例問題に答えるというのは、ある意味、無茶なことですよね?
……….っていうことは
事例問題に、そもそも完璧な正答は求められていない!
とも言えます。(だからといって気を抜いてはダメですが。。。)
また、事例に携わる人の数だけ、クライエントの理解の仕方や視点は違うもので、事例問題には一つの決まった正答があるわけではない! とも言えるのです。(だからといって、なんでもありというわけではないです)
従って、事例問題で求められているのは
臨床心理学的な物の見方ができるかどうか。
つまり、紙面上で得た知識であれ幅広い知識が身についていて、それらを統合でき、実践に生かすための準備ができているか?
が問われています。
ってことでもう少し例をあげてみます。
様々な問題例
(問題例2)
48歳の女性、1年ほど前から家事の手際が悪くなり、気が沈んで意欲がわかなくなることが多くなった。またその日の予定をうっかり忘れたり、待ち合わせの時間を間違えることもあるようになった。そのような自分をふがいなく思い、自責の念にかられて落ち込んでしまったり、家事ができないことで家族に申し訳ないと思い、涙が止まらなくなってしまうこともある。睡眠も浅く、夜中にたびたび目が覚めてしまう。
(1)この事例のアセスメントをするためには、どのようなことが必要だと考えますか?
(2)(1)の結果を医師に報告するとしたら、どのような報告書を書きますか。
(3)この事例にはどのような支援が必要だと考えますか。
(日本女子大学大学院 2015年度)
(問題例3)
小学6年生男子A君が「死にたい」と母親にもらすようになった。心配した母親が学校外にある施設相談室に相談に来た。母親によれば、クラスで無視などのいじめをうけているらしいが、A君はそれ以上詳しく話したがらず、「担任に言わないでほしい」と母親に言ったそうである。その母親から相談を受けた相談室のカウンセラーとしてどのように対応するか。母親に対してどのように答えるか等。具体的な対応を挙げて、答えなさい。[400字程度](東洋英和女学院大学院 2016年度)
(この問題の解説はこちらの記事に書いています→事例問題が全く解けないときの対処法|臨床心理士指定大学院入試対策)
(問題例4)
あなたが公立中学校のスクールカウンセラー(SC)をしていると仮定する。一年生のB美から、クラスで発生しているいじめについての相談があった。
被害にあっているのは、勉強や身体の発達面で少し遅れがみられるA子で、同じ小学校出身のB実の話によると、実は以前からいじめは継続しているとのこと。。。。。。(長いので以下略)。。。。
今回の事例に対してSCはどのように対応するべきだろうか。できるだけ具体的に書きなさい。(明治大学大学院 2011年度)
解答のポイント
事例の流れをつかんでから、解答を組み立てる
事例には
① 症状や主訴
↓↓↓
② 見立て⇔アセスメント
- クライエントの症状は、こういう障害ではないか
- こうこうこういうことが原因なのではないか。
- 確かめるために心理検査などの情報収集をしてみよう。
↓↓↓
③ 援助
だからこういう援助が適切なのではないか。
の流れがあります。
この流れをつかんでから、どの部分を主に問われているか把握してから解答しましょう。
(問題例1)の場合
① 主訴
書字、音読を中心とした学習のつまづき(問題文に記載あり)
② 見立て⇔アセスメント
見立て:読み、書きの困難や不器用さがあることから学習障害の疑いが考えられる。また、以前落ち着きがなかったことも考慮すると、ADHDを併発している可能性もある。
アセスメント:よって、「WISC-Ⅳ知能検査」と「K-ABC心理教育アセスメントバッテリー」の2つの検査を組み合わせたテストバッテリーを行う。
根拠:
WISC-Ⅳ知能検査を通して、クライエント個人内の能力のばらつきをとらえることができ、それによって、問題となっている読み、書きの困難、不器用さ、落ち着きのなさががクライエントのどういう特性からきているのかについて検討できる。
K-ABC心理教育アセスメントバッテリーは、主に学習障害児の認知特性を査定するために、WISC-Ⅳを補完するものとして利用される。認知処理能力と習得度をみることができ、得意な処理能力が学習場面において十分に活用されているかを検討することができる。また本人の得意な処理様式に合わせた指導の仕方を検討することができる。
③ 援助方法
・心理検査を通して明らかとなった得意、苦手などのクライエントの特徴に合わせた環境づくりができるよう家庭や学校へコンサルテーションを行う。
・学校内では、細やかな個々にあった教育を受けることのできる特別支援教室の利用も視野にいれる。
・学習障害児は、劣等感を抱きやすく、時として集団生活になじめずいじめに合うことも考えられる。2次的障害が起こらないよう、周囲の暖かい理解が得られるよう心理教育を行っていく。
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この問題のポイントは
本事例の学習上のつまずきの原因を明らかにし、心理・教育的支援を行うために必要な(1)臨床心理学的アセスメントの方法、および(2)支援方法を、予想される障害との関連でいくつかの観点から考察しなさい。
とあるので、
上記の【見立て】に言及しつつ【アセスメント】と【援助方法】を答えること。
心理検査に言及するときは、必ず根拠を明確に!
雛形ー解答をどう組み立てるかー
(1)●●や◇◇という症状から、クライエントは⊿⊿障害の可能性があると考えられる。そのことを確かにするためにも、アセスメントにおいて、▼▼という心理検査を行うことが必要であると考えられる。なぜならば、▼▼という検査は○○という特性を明らかにでき、問題となっている●●や◇◇の症状が、クライエントのどの特性からきているのかを検討できるからである。
(2)支援方法としては、本人に対しては。。。。。。。。。。。周囲に対しては。。。。。。。。。。。。などが考えられる。
検査名を挙げさせる事例問題は頻出のため、この雛形が役に立つと思います。お役に立てて下さい。
(問題例2)(問題例3)(問題例4)について
今回は(問題例1)を中心に事例問題について書いてみましたが、他の問題についてはまた機会があれば解説したいと思います。とりあえずヒントになるかもしれないことだけ書いておきます。
(問題例2)
①意欲低下、物忘れ、気分の落ち込み、涙もろい、睡眠障害
②うつ病の疑いor空の巣症候群かも
- 精神健康度に関する質問紙
- 物忘れがあるため神経心理学的心理検査
- 面接で、家族関係、生育歴、夫のサポートの有無などの情報収集をする
③認知療法、薬物療法 家族への心理教育など。
※(2)の医者への報告書については、各心理検査の所見と面接や観察で得た情報などを記した上で、症状の形成と維持に関する仮説、治療方針に関する見解を記述する。その際、専門的な用語を使いつつ、根拠を明示し、論理的に記述し、わかりやすく簡潔な記述を心がける。
(問題例3)
①息子が死にたいと言っている いじめの可能性
②見立てるための情報がまだ不十分であるから、母親との面接でこうこうこういう情報を聞き出す、本人を連れてくるように促してみる、というような解答が望ましい。
③は主に問われていない。が、自殺念慮があるため危機介入について触れるのもあり。
この問題についての詳しい解説はこちらの記事に書いています。→事例問題が全く解けないときの対処法|臨床心理士指定大学院入試対策
➡ 対応の仕方の留意点としては、母親は自分の育て方が悪かったのではないかという罪悪感をもっているかもしれないため、まず、思い切って来談したことをねぎらうこと。
➡ 自殺をほのめかされた時の留意点として、
- 具体的な手段や日時まで決めているか
- 大事な所有物を誰かに与えたり、遺言を書いているか
- 過去に自殺企図はあるか
これらがある場合は自殺の確率は高いとされているため要注意である。
(問題例4)
①友人がいじめられている
③いじめ問題は、スクールカウンセラーひとりでは解決できないため、担任や他の教職員との連携を行う
頻出問題は心理検査系とスクールカウンセラー系
★心理検査を挙げる問題は頻出です。
ずばり「どのような心理検査を用いるのが適切か。またその理由を述べよ。」とか「テストバッテリーの具体例」を聞いてくるもの。検査については十分基礎知識を磨きましょう。特に発達系の大学院は要注意です。
※知能検査の実施についての過去問解説をこちらにアップしました⇒知能検査を行う際の留意点とは?【放送大学大学院過去問】臨床心理士指定大学院入試対策
★スクールカウンセラーとしての対応を述べさせるものも頻出。スクールカウンセリングは臨床心理士の「地域援助」の一環です。学校コミュニティーとの連携が1番の仕事となります。そのため校長先生、担任の先生、養護教諭、特別支援コーディネーター、地域との「連携」にまつわる解答をすることがポイントです。
おすすめ書籍
どちらかというと、保護者や教師向けにわかりやすく書かれたものです。初学者の入門用によい。事例も載っています。
まとめ
- 事例問題は、知識の総合力と実践とむすびつける力が必要
- 事例問題に求められているのは、臨床心理学的視点であり、完璧な正答は求められてはいない
- ポイントは、事例の流れ(症状・主訴→見立て⇔アセスメント→援助)をつかみながら、解答を組み立てること
- 心理検査を述べるもの。スクールカウンセラーの対処が頻出
事例問題についてはこちらにも書いてありますのでぜひ参考にしてください。
→事例問題が全く解けないときの対処法|臨床心理士指定大学院入試対策
いかがだったでしょうか。あなたの受験勉強の少しでもヒントになればと思います。
ではでは、次回は、研究計画書についてです。研究計画書とはな何かをわかりやすく解説していきます。
研究計画書とは?初学者のための基礎の基礎|臨床心理士指定大学院入試対策