こんにちは。ご訪問ありがとうございます。
久しぶりのブログ更新です。
私は3月にやっと、ハードだった2年間にわたる大学院の博士前期課程を修了し、現在は、医療系と福祉系で臨床をさせていただいています。そして今年の秋は、公認心理師と臨床心理士の資格試験ををダブルで受験するため、その試験勉強を並行してがんばっています(「がんばっています」とは言い切れないのですが… 😆 )。
そこで気づいたこと。資格試験のための勉強内容は大学院受験のための勉強内容とかぶっているものが非常に多いですね。
ですから臨床心理系大学院の入試をひかえている受験生の皆さん!今受験のために身につけている知識は、必ずや資格試験の際にも生かされますのでしっかりと吸収してくださいね。
ということで、今回は、大学院受験において頻出であるDSMについての過去問をとりあげていきます。社会人に特に人気のある放送大学大学院の過去問をとりあげました。
自閉症に関連する概念について、とくにDSMにおける変遷に言及しながら論じなさい。(放送大学大学院 2015年度)
これに関する問題はここ最近、頻出になってきていますね。というのも、2013年の最新のDSM-5が出てまもないですし、DSM-ⅣからDSM-5への変更点の大きな目玉となるものが「自閉スペクトラム症」なのです。どの大学院を受験するにせよ、必ず!おさえておかなくてはいけない頻出事項だと思ってください。
ここまで読んでDSMってなんだろう?自閉症ってなんだろう?と思った人は要注意です。
そんな人のために、少し丁寧に説明していきたいと思います。
何を聞かれているのか?(設問のポイント)
2点あげられます。
①「自閉スペクトラム症」の障害の特徴を正しく理解しているかどうか?
② スペクトラムの考え方を理解しているかどうか?
DSM-5では、スペクトラムの考え方が導入されました。その考え方が大きく反映されたのが広汎性発達障害。「自閉スペクトラム症(or自閉症スペクトラム障害)」と名称が変わりました。スペクトラムとは?具体的にどう変わったのか?などの知識を問うています。
これらのポイントを念頭において、早速いきましょう。
自閉症とは?
自閉症の特徴として有名なのが、ローナ・ウィングが提唱した「ウィングの3つ組」というものです。特徴を端的に表しています。この3つは必ず覚えましょう!
①社会的相互作用の障害
②コミュニケーションの障害
③想像力の障害とこだわり行動・常同行動
① 社会的相互作用の障害とは?
対人的なやりとりがうまくできないもの。
視線があわない。表情が乏しい。一人遊びが好きで友達がいない。人の気持ちが読めない、暗黙のルールがわからず、失礼なことを悪気なく言ってしまうetc。
② コミュニケーションの障害とは?
言葉の遅れがあるもの。
及び、言葉の遅れがない場合も双方向性のなかで話せない、会話が一方的で言いたいことだけを話す、言葉の裏の意味を読むことができない等の特徴もこれに含まれる。
想像力の障害とこだわり行動・常同行動とは?
同じしぐさや行動パターンを繰り返す。いつものパターンで行動できなかった場合(いつも同じ道順を通るのに、たまたま道路工事で通れなかったなど)はパニックをおこすなど、強いこだわりをもつ。
ごっこ遊びができない 模倣ができない。興味の幅が狭い。融通が利かない。etc
中核は社会性の障害
1943年にアメリカのカナーによって、はじめて自閉症についての報告がなされ、「早期幼児自閉症」と名付けられた頃から指摘されていたように、自閉症の中核となるものは自閉的孤立、つまり対人関係の障害、社会性の障害ということになります。
※知的障害を持つ人と知的障害を持たない人両方がいるということもとらえておいてください。
特徴を得意と苦手、両面から理解しておこう。
DSMとは?
では、次にDSMとは?
DSMとは、アメリカの精神医学会が作成した「精神障害の診断・統計マニュアル」のことです。
患者を診断するのにマニュアルがあるってことです。「こうこうこういう症状があれば〇〇病と診断しましょう。」という診断のルールですね。医師は、そのマニュアルに従って病気を診断しているんです。
そして、国際的に使用されている診断マニュアルには、2つある!ということをまずおさえてください。ICDとDSMです。
ICDとDSMの違い
分類 | 最新版 | 改定年 | 発行 | |
DSM
(精神障害の診断と統計マニュアル) |
DSM-5
(第5版) |
2013年 | 米国精神医学会(APA) | 精神障害のみ |
ICD
(国際疾病分類) |
ICD-11
(第11版) |
2018年 | 世界保健機関(WHO) | 身体疾患+精神障害 |
マニュアルが2つあるってややこしいですよね…..
どうして2つあるのか?
上の表をみるとわかるように、ICDは、WHOが作成したもので、こっちが本来の国際的に使用することを目的にして作られたものなんです。
一方で、DSMは、アメリカ精神医学会が作ったもので、もともとアメリカのローカル版なのです。つまりアメリカという国の事情に合わせて作ったもの。
ですから、DSMは、本来は国際的なものではない……..と言えますが、アメリカの国際パワーが国連を上回るという現状があって、世界の学会にDSMは普及し、現在は国際標準が2つ存在しているのだそうです。
そして!大学院受験に問われやすいのはDSMです!ですので、DSMがどのように、これまで改訂されてきたのかといった歴史的変遷も、すごく重要事項ですので必ず勉強しておいてくださいね(病因論や症候論の違いなど、すごく大事です。ここではとりあげませんが)。
受験で一番狙われやすいのは、DSM-5はDSM-Ⅳからどう変わったのか?
大きな変更点は2つあります。
- DSM-Ⅲから導入されていた多軸診断が廃止になったこと。
- カテゴリー診断からディメンション診断に変わったということ。
1については、今回の過去問には特に関係がないのでここでは省きますが、知らない人は勉強しておきましょう。
今回の過去問で問われているのは2ですのでそれについて説明していきます。
ディメンション診断とは?
●カテゴリー診断というのは….
個々の障害について、これは〇〇障害、これは〇〇障害、と障害と障害の間に境界線を引くもの。また健常の人と障害を持つ人も、くっきりと区別します。
●しかしディメンションってのは違います。
病理というものは、健常から障害までずっと連続しているんだと考えます。また、似た症状を持つ障害どうしも、それらの状態像の間に境界線は引かず、一連の連続体として見なす考え方です。
ですので、基盤に多元的なスペクトラムを想定した上で、軽度なのか中度なのか重度なのか、という重症度で判断するというものなのです。
簡単にいうと、背の高さを考えてみてください。高い人もいれば低い人もいますよね。
めちゃくちゃ高い人、ちょっと高い人、普通くらいの人、ふつうよりちょっと低い人、めちゃくちゃ低い人…………みたいにして連続してますよね?それと同じです。
自閉症という特徴をめちゃくちゃ持っている人、まぁまぁ持っている人、普通に持っている人、少しだけもっている人、もっていない人………までずっと連続体なんです。
スペクトラムというのは、光の連続体という意味です。光が物に当たった際に虹色の光が出ますよね?このように病理にも、明確な境界線がつけられずに多様な状態像があるのだということを示す概念なのです。
具体的な変更点
スペクトラムの考え方はもうおわかりになったかと思います。
あとは、具体的にどう変わったのか?というところをおさえましょう。
「広汎性発達障害」から「自閉スペクトラム症」への変更点
①5つに区分されていた下位分類が、「自閉スペクトラム症」にふくまれるようになる
DSM-Ⅳでは、「広汎性発達障害」という大きな枠の中に、自閉性障害、アスペルガー障害、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害、レット障害が含まれていました。
⇊⇊
DSM-5では、そのような細かい分類をなくし、「自閉スペクトラム症」という大きな一つのくくりにまとめられました。
※レット障害は遺伝子が原因で生起する障害で、原因となる遺伝子が特定されたということをうけて、DSM-5では除外されました。
②DSM-5での診断軸が2つに。
診断の要件も変わりました。
DSM-Ⅳまでは「ウィングの3つ組」の3つの特性がそろうかどうかで診断名がきめられていました。
DSM-5では、ウィング3つ組の ①社会性相互作用の障害 ②コミュニケーションの障害が統合され、
- 社会的相互性の障害とコミュニケーションの障害(ウィング3つ組の①と②の統合)
- 反復常同性(ウィング3つ組の③)
の2つの診断軸に変更されました。そして、この2の「反復常同性」の下位項目の中に 感覚過敏や鈍麻などの知覚異常の項目が追加されています。この特徴は、臨床上非常によくみられる特徴であることから、これが追加されたことは大きな前進 です。
※コミュニケーションの障害があっても、反復常同性が目立たないものは、「自閉スペクトラム症」とは別の「社会的コミュニケーションの障害」という枠に入ることになりました。これについても覚えておきましょう。
③その他の変更点
- DSM-Ⅳでは…広汎性発達障害とADHDの両方が疑われる場合は、広汎性発達障害を優先するというルールだった。
- DSM-5では…自閉スペクトラム症とADHDは併存して診断可能となった。
- DSM-Ⅳでは…幼児期の症状を中核として診断する。
- DSM-5では…どの年齢になっても診断が可能なものへと変更した。(症状が幼児期をすぎて「後になってから明らかになるものある」と記載されている)
このような変更点も頭にいれておきましょう。
スペクトラムの概念が導入された背景
しかしながら、そもそも、どうしてスペクトラムになったのか?
その背景を少しおさえておきたいと思います。
広汎性発達障害の中の、「自閉性障害」では、知的な遅れのないものを高機能自閉症と呼んでいたこともあり、特に「アスペルガー障害」との明確な分類が難しいということがあったようです。
また、自閉症の特徴をもつ人の状態像は多様で、「広汎性発達障害」の中のどの枠にも入らず、結局は「特定不能の広汎性発達障害」と診断される人がふくれあがっていたという現状もあったようです。
こういった背景から、程度の差はあれ、自閉症という特徴をもった連続体という、ローナ・ウィングが提唱した「自閉症スペクトラム」という概念を導入したとされています。
<プチまとめ>
意義:従来のカテゴリー診断においては、区分ごとの概念間で近似性、重複性が多くみられ、一人ひとりの患者を、どの枠に当てはめるかを厳密に判断することが難しく、診断上の混乱があったが、その現状が改善された。
一方で…..
限界点:診断概念が広がったことで、その臨床像に広大な多様性を含んでしまうのではないか、という懸念もある。
どうやって解答していくか?
ここまでで、この過去問に答えられる知識はそろったと思います。
いよいよ、これらの知識をどう答案にアウトプットするかについていきたいと思います。。
論述問題としては、「説明しなさいタイプ」ですね。(論述問題のタイプについては「これだけ知っておけばなんとか書ける【論述対策】臨床心理士指定大学院受験」を参照してください)
どのように組み立てるかを考えてみました。参考になれば幸いです。
序論 自閉症は、現在DSM-5において、「自閉スペクトラム症」としてまとめられている。以下、自閉症に関する概念としてスペクトラムの概念を取り上げ説明し、それが導入された背景、具体的な変更点について述べる。
本論 まず、スペクトラムの概念について述べる。……………………….次に、導入された背景については、………………………………具体的な変更点としては………………..
結論 以上のように、自閉症の診断に導入されたスペクトラムの概念は、多様な状態像を一括りに統合するもので、従来のカテゴリー診断における診断上の難しさが改善された点でその意義は大きい。
<補足>「論じなさい。」について
「論じなさい」「説明しなさい」「述べなさい」
論述問題の形式には、このように様々な言い回しがあります。今回とりあげた過去問は、「説明しなさい」「述べなさい」ではなく、「論じなさい」になっているので、それに関して少し付け足したいと思います。
厳密にいえば….
- 「説明しなさい」「述べなさい」の場合は…..問われている知識を淡々と書くでOK
- 「論じなさい」の場合は….知識について述べることは必須。その上で、それに関する限界点や意義など自身の意見を述べる。しかし注意したいのは、自身の意見といっても、オリジナリティのあるものは書いてはいけません。あくまで常識的なレベルにおさえ、知識を自分の意見として書くにとどめることが大事。
一応、頭の隅にいれておきましょう。
おすすめ書籍
★DSMの歴史的変遷や、従来の診断基準がDSM-5でどのように変更したのかがよくわかる!
★発達障害について読むなら最初におすすめしたい本。発達障害の特性は多かれ少なかれ誰でももっている。健常者との連続体であるという視点に立った本。気づきが沢山あります。
ここまでお読みくださりありがとうございます。以上、自閉スペクトラム症のDSMにおける変更点について書いてきましたがいかがだったでしょうか?
次の記事は⇊⇊
事例問題が全く解けないときの対処法|臨床心理士指定大学院入試対策