ご訪問ありがとうございます。こんにゃろうです。
9月になりましたね。いよいよ入試ラッシュに突入ですね。ということで、今回も前回に引き続き、過去問分析です。
今回は、精神分析の最も重要な概念である「転移」についての過去問について答えていきます。(読者様よりリクエストを頂きました。)
心理療法で転移が大切であるとよく言われるが、どういう点で大切なのか多面的に考察しなさい。(神戸大学大学院 2013年)
「転移」は精神分析の中で最も重要な概念。用語説明問題でも出題される可能性は大ですので、必ずおさえておきましょう。
まずは、「転移」というものがどういうものかわかってないと答えられないので、それについて説明したあと、回答のポイントなどを解説していきます。では、早速いきましょう。
転移とは?
「転移」はフロイトが提唱した概念です。
心理療法では、セラピストとクライエントは、様々な感情がお互いに対して湧き上がり、ぶつかり合いながら、相互に絡み合いながらセラピーは進んでいきます。
転移とは、、
精神分析状況で、被分析家(クライエント)が過去において、重要な特定の人物に対して持っていた感情を分析家(セラピスト)に向けること、とされます。
ここでいう「重要な特定の人物」というのは、両親であることが多く、クライエントの過去、幼児期以来の両親との関係で抱いてきた内的願望や衝動、葛藤に関する問題が、セラピストとの間で再現されることです。
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例を挙げてみます。
①クライエントのAさんは、4歳の時、慕っていた父親が不審な死を遂げました。その父親は研究者でした。その後Aさんは、6歳の時に母親の再婚先について行き、そこで育てられますが、幼い頃なくした父親を理想化していて、父親のように知的職業につきたいと思っていました。しかし高校生の時にリストカットをおこすようになり、セラピーを受けることになったのです。初めは、セラピストに対して、恋愛感情にも似た肯定的感情をむけ、セラピストを理想化し、尊敬していました。
②ところが、Aさんは、やがて、セラピストに対して、強い攻撃を向けるようになります。面接場面でカルテを破ろうとしたり、手首を切ろうとしたり、それを止めるセラピストを殴ろうともしました。また些細なことで「私を嫌っているんでしょう?!」と責め立てるようになりました。
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Aさんは、一体どうしてこのような感情や態度をセラピストに向けたのでしょうか?
①の場合、父親転移と考えられます。Aさんは、幼い頃亡くした父親を理想化していて、その理想化した父親像をセラピストに投影していたと考えられます。Aさんにとって「過去における重要な特定の人物」は父親であり、実父に対する尊敬の念をセラピストとの関係で再現したのです。
②の場合は、母親転移と考えられます。というのは、Aさんの母親が再婚するときに、母親はAさんを実家に置いていこうとしました。Aさんは、必死に「連れて行って」と懇願し、母親についていきました。その時の彼女は、母親に愛情を求めつつ、自分を置き去りにしようとした母親に対する怒りをも同時に持っていたのです。セラピストに対して、依存しつつ攻撃するといった矛盾した態度は、母親に対する、この愛と怒りの両価的感情をセラピストに向けていたと考えられます。
いま、ここで
このように転移は、クライエントが過去に抱いていた両親への感情が、今まさに、セラピストとの間で体験されるもので、強いインパクトを持ちます。
転移は、もともとクライエントの過去のものであるため、本来ならば直接取り扱えないものが、「今、ここで」生き生きと体験され、「今、ここで」目の前に再現されるものなのです。
治療の素材を提供する
激しいクライエントの転移が、一体どこから来たものなのかを分析することで、フロイトはクライエントの無意識を探ろうとしました。精神分析では、転移を分析し、クライエントの無意識に抑圧されていた感情を明らかにしていきます。
そうすることで、クライエントも、今まで気づいていなかった問題に気づくことができ、人格を変容させていくことができるようになり、治療が進展していきます。
つまり、転移は重要な治療の材料となるのです。転移が今ここで繰り広げられているからこそ、それが可能となるのです。
陽性転移と陰性転移
転移には2種類あります。
セラピストに対して、尊敬、信頼、愛情などの肯定的感情を向ける陽性転移。
セラピストに対して、不信感、怒りなどの否定的感情を向ける陰性転移。
先の例では、①は陽性転移、②は陰性転移ですね。一般的に、セラピーの初期には陽性転移があらわれ、時間の経過とともに陰性転移が出てくると言われています。
逆転移とは?
転移は、クライエント側のセラピストに対する情緒体験なのですが、一方、逆に、セラピスト側がクライエントに対してもつ情緒体験のことを「逆転移」といいます。
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先のAさんの例をセラピスト側からみてみると、、
①クライエントのAさんに陽性転移を向けられたセラピストは、とてもいい気持ちになります。Aさんは知的な研究者であった理想の父親像をセラピストに重ねていました。セラピスト自身も知的研究者でありたいと思っていたため、そのような方向に理想化されることは、さらに、セラピストの自己愛を満たしていきます。
②やがて陰性転移を向けられたセラピストは、とまどいます。攻撃を受けながらでも、Aさんをなんとかしたい、という操作的な思いや、反抗的態度に許せないという非難的な思い、クライエントに振り回されている感じ、治療に対する焦りなどが次々に湧き上がってきます。
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こういった、セラピスト側に湧き上がってくる感情はすべて逆転移と言えます。
逆転移には2つあると言われています。
- セラピストが、セラピスト自身の「過去の重要な特定の人物」に対して持っていた感情をクライエントに向けるもの
- セラピスト側に生じてくる情緒は、クライエントから投げ込まれている情緒だと考えられるもの
1、は従来から、誤ったクライエントの理解を導く危険性があり、治療の妨げになるものとされています。セラピストは、クライエントを曇りなく映し出す鏡として作用するべきで、逆転移はそれを困難にしてしまいます。
そのため、教育分析やスーパーウィジョンを通して、セラピストは逆転移を自覚し、自身の心をまっさらな状態にし、中立性を保てるようにしておくことが重要となります。
一方、2は、言い換えるならば、逆転移は、クライエントの無意識にある葛藤の反映である、とも言うことができます。
そうであるならば、クライエントを理解するために、逆転移を積極的に利用しよう!ということになります。
セラピスト側にそういう感情(逆転移)をひきおこさせるクライエント側の葛藤は何なのか?を考えることで、より深いクライエント理解ができるようになります。
このような視点は、精神分析のみならず、様々な臨床場面で重要視されているのです。
つまり、2の意味においては、逆転移も、転移と同様、クライエント理解にきわめて重要な治療の材料となるのです。
以上のように、
- 1であれば、治療の妨げ
- 2であれば、治療ににおいて有用な材料
と正反対な2つの意味をもつ逆転移ですが、いずれにしろ、逆転移を自覚することは、正しくクライエントを理解し分析する上で不可欠なセラピスト側の課題であるといえます。
転移が大切である理由
ここまでいかがだったでしょうか?ここで、今日の過去問に戻ってみましょう。
心理療法で転移が大切であるとよく言われるが、どういう点で大切なのか多面的に考察しなさい。(神戸大学大学院 2013年)
転移はどういう点で大切なのか、という点を聞かれていますね。また、多面的に考察しなさい、の多面的というのは、「複数の視点から」ととらえることができます。
これらのことをふまえ、転移が大切である理由として
- 「今ここで」の体験として、重要な治療の素材となる
- セラピストに沸き起こる逆転移をよく知ることは、より一層クライエント理解を深めることができる
この2点が挙げて(一応多面的に)答えられるのではないかと思います。
どうやって回答していくか
ここからは、いよいよ、どうやって回答していくかを書いていきます。内容についてはひとまず置いておいて、ここからは、回答の形式についての話になります。
ポイント1 どのタイプの論述問題なのかを見極める
必見!これだけ知っておけばなんとか書ける【論述対策】|臨床心理士指定大学院受験でも書いたように、論述問題は3タイプに分かれます。
- 「説明しなさい」タイプ
- 「比較しなさい」タイプ
- 「考えを述べなさい」タイプ
この過去問は、どのタイプでしょうか?
……そうですね。「説明しなさい」タイプですね。
これらのタイプには、それぞれ回答の雛形があって、それに当てはめていけば論理的な文章になります!
雛形について知りたい方、また忘れてしまった方は、ぜひこちらの記事、必見!これだけ知っておけばなんとか書ける【論述対策】|臨床心理士指定大学院受験 にわかりやすく解説してますので、そちらも参照してください。
では、「説明しなさい」タイプの雛形はどんなのか?というと。。。。
本論 (詳細)結論 (まとめの形でもう一度定義)以上のことから、●●とは✖✖✖✖✖である。
ここではちょっと、この問題の内容に合わせて、雛形にバリエーションを加えてみます。
本論 (詳細)第一に、●●の観点からである。~~~~~~。第二に、▲▲の観点からである。~~~~~~。結論 (まとめ)以上のことから、転移は✖✖✖✖✖であり、●●の観点と▲▲の観点より、心理療法において大切である。
この雛形では観点を2つに絞りましたが、文字制限や試験時間の時間配分によって、観点を3つや4つにしても全然OK。
ポイント2 論述の骨格が決まった時点で書き始めましょう。(かなり重要)
必見!これだけ知っておけばなんとか書ける【論述対策】|臨床心理士指定大学院受験 にも書きましたように、論述問題はいきなり書き始めてはいけません。
序論、本論、結論、のアウトラインを必ず、どこかにメモをしてから!書き始めます。
論理的な文章を書くことは、家を建てるのに似ています。
アウトラインがないまま書き始めるのは、柱がないまま家を建てるのと一緒です。柱がなかったら出来上がった家は倒れてしまいますね。
ポイント3 どうしても時間が足りないときは、序論、結論は省く!
序論をどのように書くかで悩むのは、時間がないときは無駄です。本番でどうしても切羽詰まったときは、序論なし!結論なし!でいきましょう。
本論の中に、しっかりした内容が詰まっていればOK!
くれぐれも、時間配分は過去問でしっかりと戦略をたてて本番に挑みましょう。
こんにゃろう風解答例
転移とは、フロイトが提唱した概念で、クライエントが過去において、重要な特定の人物に対して持っていた感情をセラピストに向けることである。転移がどういう点で大切であるのかは2つの観点から考えることができる。
第一に、「今、ここで」の観点からである。セラピーが進展するにしたがって、クライエントは様々な感情をセラピストに対して向ける。肯定的感情を向ける陽性転移や、否定的感情を向ける陰性転移がそれである。これらの感情は、クライエントの過去の重要な人物に対する、幼児的な願望や衝動である。つまり、これらはクライエントの過去のものであるため、本来ならば直接取り扱えないものが、「今、ここで」目に見える形となって再現される。そのため、目に見える形となった転移に解釈を加えることが可能となり、クライエントの無意識に抑圧された感情を明らかにすることができ、治療を進展させていくことができるのである。
第二に、逆転移の観点からである。転移がクライエントがセラピストに対して持つ情緒体験であるのに対して、逆転移は、セラピストがクライエントに対して持つ情緒体験である。かつては、この逆転移は、治療の妨げになるものとして考えられ、教育分析を通して、セラピストの内的葛藤を事前に解釈しておく必要があると考えらていた。しかし、セラピストが体験する逆転移はクライエントを理解するための重要な材料ともとらえられている。逆転移は、クライエントの無意識にある葛藤の反映であり、セラピストに逆転移を引きおこさせるクライエント側の葛藤は何なのか、を考えることで、より深いクライエント理解ができるようになる。
以上のように、転移は、過去の体験を「今ここ」に持ち込むことで治療の素材を提供するものであり、また、転移はセラピスト側の逆転移を引き起こし、それもまた、クライエント理解にきわめて重要な治療の素材を提供するものである。これらの2点の観点により、転移は心理療法において大切である。
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今回は、転移と逆転移の視点から書きましたが。
問題文の「多面的」というのは他にも
- フロイト派の立場からの「転移」とユング派の立場からの「転移」の違い
- 精神分析の他の重要概念(例えば、行動化、抵抗、投影同一視など)との関連から。
という観点からも書くことができるかなぁと思います。いろんな観点からこの問題をトライしてみて下さい。
おすすめ書籍
まさに、多面的!に「転移/逆転移」について書かれています。フロイト派、ユング派、精神科医、臨床心理士、など様々な立場から、事例を挙げながら、それぞれの経験談に基づき書かれています。終章には、著者の成田善弘氏の境界例の患者さんとの、転移/逆転移をうまく扱えなかった失敗例が書かれています。精神科医の成田氏が若かりし時、患者との、ドロドロした転移/逆転移の渦の中にひきこまれました。その時に経験した、実に生々しい感情を赤裸々に語っていらっしゃいます。興味のある方はぜひ!
以上、精神分析において最も重要な概念である「転移」について今回は書きましたが、かなり抽象的な概念であるため、理解も難しいし、論述を書いていくのも難しいかもしれません。でも、自分なりに、論述問題で使える言葉を塊にして覚えておくとよいかもしれませんね。(例:「抑圧された心的葛藤」「意識化し解消していく」「洞察を促す」などなど。。。。
さて、次回は、筆記試験に続く、面接試験の対策について書きました。筆記試験を頑張って頑張って、合格したとしても。。。まだ本当の合格ではありません。あともう一歩!面接試験があります。合格を確実にゲットするために、面接対策は入念にしておきましょう。
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