ご訪問ありがとうございます。
久しぶりのブログ更新です。
コロナのことで、世界が不安で揺らいでいますが、いかがお過ごしですか?
昔も、飢饉(ききん)や疫病で苦しんでいた時代が沢山あります。歴史を紐とくと、その時代その時代で、人類は必死に苦境を乗り越えてきていることがわかります。
人間のパワーってほんとにすごいなぁと思います。
コロナのことも、きっと私たちは、乗り越えていけると信じている今日この頃です。
ということで、今回も、過去問解説をしていきます。
今回は、心理療法についての過去問をとりあげました。
以下の過去問です。
心理療法やカウンセリングのアプローチにはどちらかというと過去志向の傾向が強いもの、現在志向の傾向が強いもの、未来志向の傾向が強いものがある。それぞれのアプローチの代表的なものについて、その相違がどこにあるのかを具体的な例を示しながら述べなさい。
(2016年(?) 明治大学大学院)
心理系大学院の問題で心理療法についての問題は、めちゃめちゃ頻出です。
たとえば、
例)精神分析、来談者中心療法、行動療法・認知行動療法の特徴を比較 せよ。
特にこのような3大療法の比較は、どこの大学院でも出ます。王道中の王道の問題ですね。3大療法の比較が出たら、絶対に書ける!というくらい、必ず練習しておきましょう。
しかし、今回とりあげたような
現在、過去、未来という「強調される時間軸」で心理療法を比較した問題
は、3大療法の比較だけ、勉強しておけばよいというような問題ではなさそうですね。
このように、直球ど真ん中の問題ではなく変化球で問われた時の問題にも対応できるといいですね。
ポイント
代表的なものとしては以下のものを取り上げました。
- 過去に焦点をあてるものとして…精神分析療法
- 現在に焦点をあてるものとして…来談者中心療法
- 未来に焦点をあてるものとして…ブリーフセラピーの解決志向モデル
単に、各々の心理療法の治療メカニズムを説明するだけでは不十分。この問いで求められているのは、何故、その時間軸(過去(現在・未来)に焦点をあてるのか?そのことで、他のアプローチにないメリット(どんないいことがあるの?)が述べられていることがポイント。
で、精神分析療法(過去志向)と来談者中心療法(現在志向)は、沢山の書籍や受験本に、詳しく書いてあるので、解説はそちらに委ねます。
ここでは、まだマイナーな心理療法で、あまり受験本にも載っていない「ブリーフセラピー」特に、解決志向モデル(未来志向)をとりあげながら、他の心理療法との比較について書いていきます。
ブリーフセラピーの起源
ブリーフセラピーはミルトン・エリクソン(Erikson,M.H. 米国の精神科医)の心理治療に関する考え方や技法から発展。(注意:ライフサイクル論で有名なエリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson)とは別人です)
従来の心理療法(例 : 精神分析)ならば、その理論(例:精神分析学)に基づいて治療技法を適用するが、エリクソンは、「クライエントがもっているもの使えるものは何でも利用する」「変化を起こすことならなんでもする」といった自由で柔軟な考え方。
×「治療の方法論に患者をあわさせる」のではなく、
〇「患者に合わせて治療的な対応を繰り出すこと」が基本的姿勢。
その後、家族療法に影響を与え、ブリーフセラピーとして、3つのモデルに発展した。
3つの主要モデルとは、
ベイトソン(Bateson,G. )、ヘイリー(Haley,J.)、ウィークランド(Weakland,J.H.)、ジャクソン(Jackson,D.D.)が提唱
2、ストラテジック・モデル
ヘイリー(Haley,J.)、マダネス(Madanes,C.)が提唱
3、解決志向モデル
ドゥ・シェイザー(de Shazer,S.)、キム・バーグ(Kim Berg,I.)により、 1984年頃から、BFTC(Brief Family Therapy Center)を拠点に提唱したモデル
この3つの中から、未来志向のものとして「解決志向モデル」をとりあげます。
- (以下、解決志向モデルだけでなくブリーフセラピー全体の特徴となる部分は「ブリーフセラピーでは」
- 解決志向モデルのみに当たる部分は「解決志向モデルは」という表現を使っています。)
【未来志向】ブリーフセラピーの解決志向モデル
特徴
特徴1)短期間で、効率よく、リーズナブルに、しかも治療効果を大きくしようとするアプローチである。
以下の点に重点をおく。
- Brief=短期間に・・・・・・・・・面接回数を少なく問題の解決を行う
- Efficient=効率的に・・・・・・治療効果に対して時間、労力、費用が見合っている
- Effective =効果的に・・・・・・十分な治療効果がもたらされ、クライエントのニーズにこたえられること
特徴2)未来の「解決」に目を向けるアプローチである。
症状の原因ではなく、初めからその解決に焦点をあわせて(どうしたいか?どうなりたいか?に重点を置く) 解決後の状態の実現をめざす。
特徴3)解決策をさぐる際には、クライエントのもつ強さや力、成功体験や資源(リソース)を活用する。
「クライエントがもっているものは、何でも利用する」というのが基本的考え方です。
人間観
人はすでに、問題を持ちながら生きている。
まだそれらの問題には十分には対処できていないけれど、
すでに、できる限りの方法で、解決を自ら始めている。少なからずの成功体験や何とかうまくやれていたりする。
援助の目標と方法
<目標>
顕在化している現実的な問題を直接的に解決する。(原因探索ではなく「解決」に焦点をしぼる。)
<方法>
解決には2つある。⇒すでにある解決 / これから起きる解決
- すでにある解決は、これからもいかに再現させるかを考える。
- これから起きる解決は、どのような状態になったら解決と言えるのかといったイメージを具体的に想起させて明確化する。
- 想起させるときに質問を使う。
・ミラクルクエスチョン
「これから変わった質問をします。今晩あなたが眠っていて、家中が寝静まっている間に奇跡が起こったとします。あなたがここへいらっしゃることになった問題が解決するという奇跡です。でもあなたは眠っていたので奇跡が起こったことを知りません。それで明日の朝、目が目覚めたときにどんな違いから奇跡が起こって問題が解決したと分るでしょうか」(これからおきる解決を具体的に想起させる)
・例外さがし
「いつも〇〇ですか。どういうときは〇〇ではありませんか。」(すでにある解決を自覚させる)
・スケーリングクエスチョン
「〇〇について全くできない状態を『1』、そこそこうまくいっている状態を『10』とすれば、今どれくらいですか」(積極的に変化を促す)
・コーピングクエスチョン
「そんな大変な状況の中を一体どのようにして生き延びてこられたのですか」(リソースをみつける)
・コンプリメント
クライエントがうまくやっている所を賞賛しねぎらう。(肯定的な面に目を向ける)
・課題の提示(次の面接までの課題を提示する)
Do More課題(例外やうまくいっていることを続けてください)
Do Something Different課題(今までと違ったこと、新しいことをやってみてください)など
面接は、ほぼ定型化された手順で進め、質問もほぼ定型化された言い回し。
精神分析療法や来談者中心療法と比較すると?
★原因の探求はしない
精神分析は症状の原因を探求し、原因を過去の経験にあるのだと考える一方で、解決志向モデルは、症状の原因は考えず解決の構築を考える。あなたはどうしたいか?どうなりたいか?に重点をおき、未来の「解決」に目をむける。
★顕在化した行動や状況を扱う
・精神分析や来談者中心療法は、無意識や意識などの目にみえない精神内界を扱うが、ブリーフセラピーは、目に見える行動や問題状況、顕在しているものを扱う (ここは認知行動療法と似ている)
★面接の主役はセラピストではなく、クライエントが中心。
・ブリーフセラピーの考え方は、解決の手段を知っていて、解決するための資源をもっているのはクライエントである(このような立場をNot Knowing Approachと呼ぶ)
・この姿勢は、来談者中心療法と同じ。来談者中心療法では、問題は何か、どう解決したら良いかについて最も良く知っているのはクライエント自身であるというロジャーズの有名な考え方がある。
・一方で、精神分析は、セラピストが中心。セラピストがクライエントの問題を改善する。セラピストのやり方にクライエントが合わせるという要素が強い。
★セラピストークライエントの関係性は、治療要因には含めない。
精神分析療法も来談者中心療法も、セラピストークライエントの関係を治療において重要な要素として考えている。
精神分析療法
セラピストークライエント間の関係の中で生じる現象(転移や抵抗)を主に扱う。
今ここで現れた、セラピストークライエント間の治療関係そのものを素材として、クライエントの過去を扱う(これについては、下の補足を参照)
来談者中心療法
温かいラポールで結ばれた、セラピストークライエントの関係性は、クライエントの人格成長を促す上で極めて重要。この信頼関係があるかないかは治療の成否に大きく影響する。(治療関係は治療要因にふくまれる)
解決志向モデル
セラピストークライエントの関係性は、協働関係としての「よい関係」ではあるが、関係性そのものを治療要因に含めるわけではない(この部分も認知行動療法に類似している)
★セラピストはクライエントに指示的に関わる。
・来談者中心療法の「非指示的態度」は有名ですね。セラピストの知識や解決策は押し付けない。
・精神分析療法においても、クライエントの語りにじっくりと耳を傾けるという意味では、来談者中心療法と類似しています。
・一方でブリーフセラピーでは、セラピストは、明確な方向性をクライエントに示す、指示的な関係(認知行動療法に類似)
★治療期間は短い。
精神分析療法も来談者中心療法も、中~長期にわたる。
フリーセラピーは短い(10回に満たない)(認知行動療法に類似)
★技法はシンプルで定型化されている。
・来談者中心療法は、技法は重視せず、技法よりも、セラピストの態度やセラピストークライエント間のラポールに基づいた関係性を重視する。一方、精神分析療法は、技法を用いて治療を行う。(自由連想法、解釈、明確化、徹底操作など)
・精神分析療法では、心の深い水準を扱うための技法であり、その使用には、経験や臨床スキルを要するのに対して、解決志向モデルの技法は定型化されており、より現実的な状況や顕在化された行動を扱う技法であり、シンプルでわかりやすいものとなる。
セラピストの訓練もしやすく、他の心理療法に比べて臨床場面でも適用しやすい。(現在ではスクールカウンセリングでも適用されています)
未来に焦点づけることのメリット
・人は近い将来の具体的な目標が定まっているとその目標に向かって行動を起こそうとする傾向がある。⇒モチベーションがもちやすい
・精神分析や来談者中心療法は、治療期間が長くなったり、クライエントにとって経済的な負担があったり、治療のゴールが曖昧であったりする場合がある。
一方、ブリーフセラピーでは、治療期間が短く、リーズナブルで、ゴールが明確であり、具体的な問題に直接的に解決していくことで、クライエントのニーズに対してより適切に対応したものになる。
まとめてみた
具体的な例
さて、問題には「具体的な例を示しながら」と書かれています。
例えば対人不安の例をとりあげて考えてみます。
〇精神分析療法であれば、
対人不安はクライエントの過去に原因があると考える。特に両親との関係 (両親が厳しすぎていい子をずっと演じてきた等)が原因であれば、そのつらい親子関係や心的外傷経験を思いおこさせ、意識レベルへとひきあげトラウマを克服していくことで不安は消失していく。
〇来談者中心療法であれば、
自己概念(他者に良い印象を与えたいとする自己)と経験(他者にうまく振舞えない現実の自己)とのギャップが大きいため、否定的な評価を恐れ、対人不安になり、社会場面を回避しているのかもしれない。クライエントの現在のありのままを、セラピストが共感的に受け止めながら話をきき、温かく支持的にかかわっていくことで、クライエントの防衛的態度が緩められ、うまくやれていない自分も受け入れられるようになる(自己一致へ)。実現傾向が発揮され、必然的に、対人不安が治っていく。
〇解決志向モデルであれば、
今後どうなっていきたいかをまず尋ね、ゴールを設定する(例えば「職場の人と緊張せずに話せるようになりたい」等)。セラピストは、すでにできている面を強調し(緊張はするかもしれないけれど相手の話を聞くことはできている等)褒める(コンプリメント)。面接の回数を重ね、次第に、対人恐怖が弱まってきたと感じたならば、それをスケーリングさせたり、うまくいった時のことを尋ね(例外さがし)、うまくいった時と同じことを続けるように指示していき、解決状態を作っていく。
というのを考えてみました。
【補足】精神分析は実は、「今、ここで」(現在)を重視する
精神分析は、もちろん、過去を重視するのですが、精神分析で扱う転移とは、クライエントの過去の重要な他者との間で築かれた関係性が、「今ここで」のセラピストークライエントの関係において反復再現されることです。
つまり、「今、ここで」の私(Th)とあなた(Cl)の関係でどんなことがおこっているのでしょう?ということを材料に使って、クライエントの過去をみていくという過程なのです。そういう意味では、精神分析は、「現在から過去へ」という時間軸である考えられます。ということを補足しておきます。
このあたりのことはこちらに詳しく書いています⇊⇊
【過去問分析】精神分析ー転移とは|臨床心理士指定大学院入試対策
【補足】共通点、相違点を意識しよう
最初に書きましたが、心理療法に関する問題は大学院入試では頻出です。
心理療法は分け方によってはいろんな分け方があります。対象で分けるのか、使う手段でわけるのかなど色々あります。ぜひ、分類を意識しておきましょう。
ほかにも、
- 大人の心理療法と子どもの心理療法の違い
- 個人療法、家族療法、集団療法の違い
- イメージを利用した心理療法を任意にとりあげて説明させる問題
- 認知行動療法と行動療法の違い
- 精神分析的療法と非精神分析的療法の違い
こういった問題が過去問でみられます。
一瞬、はて???と考えちゃいますね。
どれとどれがどういう点で似ていて、異なっていてを意識しながら勉強できるとよいですね。
おすすめ書籍
カウンセリングの手法を学びたい人にはぜひともおすすめ。ミラクルクエスチョン、例外探し、スケーリングクエスチョンなど、具体的な質問が細かく書いてあり、わかりやすい。人をどうやって解決に導いていくのかが具体的にわかる。
⇊⇊
ブリーフセラピーの入門書。こちらもわかりやすい。
⇊⇊
ここまでお読みくださりありがとうございました。
お役に立てれば幸いです。
>>さて、次の記事は⇓⇓
愛着と虐待の世代間連鎖【名古屋大学大学院過去問】心理系大学院入試対策