ご訪問ありがとうございます。こんにゃろうです。
いきなりですが、あなたの周りに「困った人」はいませんか?
権威をふりかざして威張る人、平気でズケズケと傷つけてくる人、自分の価値観を一方的に押し付けてくる人、罵倒してくる人、一緒にいると怒りがこみあげてしまいますよね。
また、昨日までは「あなただけが私をわかってくれる!大好き♡」と強烈に好意をむけられていたのに、次の日には、コロっと変わり、よそよそしい態度をむけてくる。
何がなんだか、訳がわからなくなりますよね。
それでも、うまくやっていこうと努力するけど、ますます関係が泥沼化してしまう….
いかがでしょう?
どんな人とでも、個性の違いによって、多少のずれがあってストレスを感じてしまうことはありますよね。
しかし、許容できる範囲をはるかに超えた、押しつぶされそうなくらいのストレスを感じてしまう、またそれによって、自分のエネルギーが消耗し、疲弊してしまうくらい、怒り、苛立ちを感じてしまう場合、
あなたのストレスの原因となる人は「困った人」、さらに行き過ぎると「パーソナリティ障害」となる場合があります。
(もちろん対人関係は双方向性のあるものなので、自分の方に問題がある場合もありますので、一概には言えませんが)
ということで、今日はこのパーソナリティ障害についてとりあげていきたいと思います。
このような過去問をとりあげてみました。
境界性人格障害のクライエントとの治療で生じると予想される困難さとそれに対する対応について論じなさい。
(立教大学大学院 2014年度)
境界性パーソナリティ障害は、大学院入試で頻出です。
境界性パーソナリティ障害≠パーソナリティ障害
「境界性パーソナリティ障害」イコール「パーソナリティ障害」ではありません。パーソナリティ障害は全部で10種類あります。
そのなかのひとつに、境界性パーソナリティ障害があります。
回避性パーソナリティ障害 / 依存性パーソナリティ障害 / 強迫性パーソナリティ障害
B群:派手な/突飛な行動を示す群(境界例水準)
境界性パーソナリティ障害 / 演技性パーソナリティ障害 / 自己愛性パーソナリティ障害 / 反社会性パーソナリティ障害
A群:奇異な / 普通でない行動を示す群(精神病水準)
妄想性[猜疑性]パーソナリティ障害 / シゾイドパーソナリティ障害 / 失調型パーソナリティ障害
これらの10個は、A群、B群、C群にわかれていて、幅広く、神経症水準から精神病水準まで位置しています。(神経症水準、境界例水準、精神病水準などの、病態水準については、このあと述べます)
これらの10種類の名称と、A群B群C群の特徴は、必ずおぼえてください!!頻出です。
この中でも、一番、出題頻度が高いのが「境界性パーソナリティ障害」!!超重要ですよ。B群の代表選手です。
その症状やら、特徴やらを詳しく理解しておく必要がありますし、特に精神分析的な観点から理解しておく必要があります。
そもそも、なぜ精神障害について大学院入試で出題されるのか?
心理士(医師)は医師ではありません。だから、精神障害に関することは医師にまかせておけばいいのでは?と考えるのは適切ではありません。
心理士(師)になるためには、たくさん、心理的な病気や障害について勉強する必要があります。大学院でも「精神医学」の科目は必須科目となります。
なぜか?心理士(師)という立場上、医療機関で働いていなくても、心に病を持つ人に出会う可能性は非常に高いため、その知識を持っておく必要があります。
特に、この境界性パーソナリティ障害は、その特徴のひとつに、「理想化とこき下ろし」があり、援助関係を維持しにくい、という傾向があります。
この過去問は、臨床場面でトラブルになりやすい、境界性パーソナリティ障害の特徴を理解しているか否か?を問うているのです。
前置きがながくなりましたが、さっそくこの問題に取り組んでいきましょう。
解答のポイント
3点、挙げられます。
- 「境界性パーソナリティ障害」の特徴を理解しているか?
- 予想される対応の困難さを理解しているか?
- その対応の仕方について考えられているか?
一つずつ、解説していきたいと思います。
境界性パーソナリティ障害とは
「境界例」「ボーダーライン」「ボーダー」とも呼ばれています。
症状
- 情緒不安定
- 他者に対する理想化とこきおろし(「あなたは最高」と言っていたのにある時突然に「アンタなんか死ね」と言ってくる)
- 著しく不安定な対人関係
- 自傷行為などの衝動的な行動(逸脱した性的行為、薬物乱用、自殺企図、むちゃ食い、浪費なども含む)
- 見捨てられ不安が強い。(相手の些細な行動で、極端に「嫌われた。見捨てられた。」と思い、相手から離れまいとしがみつく)
- 慢性的な空虚感がある
例)
Aさんは、20代女性。会社員。会社の中では、物分かりがよく、仕事をバリバリこなしているのですが、同僚と少しずつ仲良くなってくると、泣きながら深夜に電話してきて、「死んでしまいたい。助けて。」と泣いたりするようになります。Aさんはまた、何人かの同僚男性と性的関係をもっています。その中のひとりが「俺しかあいつを救ってやれないんだ」と思うようになります。2人は急接近し、最初はうまくいっていたものの、そのうち彼のちょっとした言動に、Aさんは急に怒ったり、癇癪を起こしたりするようになります。彼は疲れ果て、AさんからのLINEの返事をしないと「もう生きていけない。今手首を切った。すぐに来て」などと、1時間おきに電話をしてくるようになります。
精神分析的な観点からの理解
精神分析的な理解が重要と、先に書きましたが、これには2つのポイントがあります。
- カーンバーグ(O.F.Kernberg)のパーソナリティ構造論の観点から
- 精神分析的発達理論の観点から
カーンバーグ(O.F.Kernberg)のパーソナリティ構造論の観点から
カーンバーグは、パーソナリティを3つにわけています。
「神経症性パーソナリティ構造」と「精神病性パーソナリティ構造」この2つの間に位置するものが、「境界性パーソナリティ構造」です。これが境界性パーソナリティ障害にあたるものになります。
「境界」と言う言葉はこの神経症と精神病の境界に位置するということが由来になっているようです。
さきほどのA群、B群、C群のリストの所で出てきた、「病態水準」は、このカーンバーグのパーソナリティ構造論を基盤にして精神疾患を分類したものです。「神経症水準」から下にいくほど精神障害が重篤になります。一番重篤なのが「精神病水準」です。
つまり、境界性パーソナリティ障害は、神経症でも精神病でもなく、その間に位置するもの。
表面的には一見きちんと適応しているように見えるけれども、パーソナリティの深いところでは深刻な病理をかかえている…という臨床像なのです。
(先ほどの例のAさんも、会社では、普通のOLとして働いています。しかし、同僚と親しくなってくると、不安定な面をみせるようになり、相手に依存してくるのです。)
このような特徴をもつ1群は、カーンバーグ以前から、精神分析学派の人達から、「ボーダーライン」といわれていたのですが、
カーンバーグは、この「ボーダーライン」という概念を、パーソナリティ構造を用いることで明確にしました。
どうやって明確にしたか?というと、3つの観点から明確にしました。
- 現実検討能力(現実を正しく認識する能力)
- 自我同一性(自己の一貫性)
- 防衛機制
カーンバーグに言わせると、境界例は、
- 現実検討能力は問題なく保たれている。
- 自我同一性は脆弱で分裂している。
- 防衛機制は未熟で、原始的防衛機制が働いている。
ということになります。
原始的防衛機制が働いているって、どういうこと?
原始的防衛機制とは、メラニークライン(M.Klein)が提唱したもので発達早期にもちいられる未熟な防衛機制のこと。
具体的なものを以下に挙げています。
この中の分裂をもう少し説明すると、
自分に対しても他者に対しても、善か悪か、どちらかに極端に2分するというもの。好きなら好き!嫌いなら嫌い!。極端に分けるのです。
普通は、人のなかには、良い面もあり悪い面もある、というふうにとらえますよね。でも、「分裂」という原始的防衛機制は、善か悪かのどちらかしかないのです。良いものと悪いものを統合してとらえることができないのです。
だから、対人関係の中で、先ほどの、Aさんのように、大好きだった彼氏(理想化)を突然、悪者にして攻撃するということ(脱価値化)が起きるのです。
こういったことが、
医師、看護師、臨床心理士など支援者に対しても起こるのです。初めはよい治療関係であっても、何かのきっかけで脱価値化によって、言いがかりをぶつけるようになったり、反抗的になったりします。
激しく不安定な、境界性パーソナリティ障害の特徴と、この原始的防衛機制とを絡めて考えておくことが重要になります。
精神分析的発達理論の観点から
これには、アメリカの精神科医であるマスターソン(J.F.Masterson)の大きな貢献があります。
マスターソンは、境界例を、マーラー(M.S.Mahler)の分離個体化段階の失敗と考え、境界例の概念の発展に大きく貢献したとされています。
このあたりを詳しく説明するためには、マーラー(M.S.Mahler)の分離個体化理論から説明しなければいけませんが、これについては別の機会に詳しく書きたいと思います。(知らない人は勉強しておきましょう)
ここでは、ごく簡単に言うと….
⇊⇊
次第に、子は母との一体感から分離して、個としての自己像を確立していく。その過程を分離個体化とよぶ。
(分離個体期は6か月から36か月。この時期は更に、分化期、練習期、再接近期、対象恒常性の萌芽期に分かれる。再接近期が、一番重要な時期とされる。)
⇊⇊
この時期に個体化がうまくいかないと
(かみくだけば、「僕がお母さんから分離して自立しても、お母さんは僕を決して見捨てない」という確信が得られないと)
見捨てられ不安を強く抱くようになる(これを再接近期の危機と呼ぶ)。
⇊⇊
そして、思春期になって親から自立をする際に、境界例のような特有な病理に移行する可能性が高くなる。
このように、マスターソンの理論は、マーラーの分離個体化理論を、境界例の原因として位置づけるなど、発達臨床には非常に重要なものになっています。このあたりも、受験では必要な知識となりますのでおさえておきましょう。
予想される対応の困難さ
先ほど、原始的防衛機制のところにも書いたように、
治療関係の中で、異常なほどに治療者を理想化し依存的にしがみつくことがあります。でもこの異常な理想化は幻滅や怒りと表裏一体。
結果として、依存しながら攻撃してくる。攻撃しているのに依存している。という矛盾した奇妙な関係が続くことになります。
攻撃されると支援者だって人間です!当然、自分の誠意や好意を台無しにされて、怒りの感情が引き出されます。(これを逆転移といいます。)
このようにして、主治医や医療スタッフ、カウンセラーなどの支援者と安定した関係が保ちにくく、治療関係がこじれやすいのです。
対応の仕方
<限界設定>
距離が近くなればなるほど、甘えと依存から攻撃的になり、手に負えなくなります。できることとできないことをはっきりさせて、ここまでは助けられるけれど、ここからはあなた自身の問題であるという限界や治療構造を、クライエントと相談して決めておくこと。
<逆転移についての理解>
境界例の治療においては、治療者に強い逆転移感情を引き起こされることが多いです。治療者自身が、患者に対し怒りや恐怖、無力感でいっぱいになり、感情的に振り回され、疲弊してしまわないようにするためには、逆転移について知り、自覚して、冷静に対応できるようにしていくことが重要。
※「逆転移」についてはこちらの記事に詳しくかいてあります。⇒【過去問分析】精神分析ー転移とは|臨床心理士指定大学院入試対策
<支援者同士が密に連絡をとりあう>
境界例の人は、慢性的な対人不信があり、人から傷つけられるのではないかという不安が強く、心の安心を得るために、周囲を自分の思い通りに操作しようとするところがあります。
だれか(例えば看護師)を味方につけてだれか(医師)を攻撃するなど、周囲の人間関係をも混乱に陥れる傾向があります。
多職種が連携して支援にあたる場合は、しっかりと連絡をとりあい、チームワークを強化しておくが重要となります。
解答のしかた
一例として、参考になれば幸いです。
まず、治療で生じる予想された困難さについて述べる。精神分析的な観点から考えると・・・・・・
次に、対応について述べる。3点あげられる。第一に・・・・・・。第二に・・・・・・。第三に・・・・・。
(結論はあってもなくても。)
【補足】障害を理解することのメリット
境界性パーソナリティ障害を理解する際に、その傾向がある人、また、健常者にも、その傾向に陥る場合があるというように、スペクトラム(連続体)で考えていくことはとても重要だと思います。
対人関係においては、お互いに、それぞれの踏み越えてはいけない、相手の領域というものがあります。それを尊重し合って健全な対人関係は成り立ちます。
境界性パーソナリティ障害の人は、この自分と他者の境界をふみこえてしまうという特徴があります。結果的に相手に依存したり依存されたりということが起こってしまいます。
このような自他の区別の曖昧さは親子関係に起こることは、しょっちゅうです。親子が依存し合うことで、お互いの自立性を奪い合い、このような歪みがやがて、不登校や家庭内暴力などの不適応行動に顕在化されていく場合もあります。
顕在化しなくても、心理相談に訪れるクライエントの生きにくさの背景に、このような親子関係の歪みが隠れている場合もあります。
このような意味でも、「境界性パーソナリティ障害」について理解を深めることは、どんな人にも起こりうるものとして、さまざまな人の生きにくさの原因をさぐるという上で有用だと、個人的には思っています。
まとめ
- パーソナリティ障害の10種類は必ず覚える。
- 境界性パーソナリティ障害は大学院入試で頻出
- 精神分析的な理解、特に、原始的防衛機制がどのような形で、発動しているのかを把握すること。
- その対応の仕方について答えられるようにすること
- 障害の特徴を健常者とのスペクトラムで考え、様々な人の生きにくさを考える上でのヒントにすることも重要。
おすすめ書籍
パーソナリティ障害を、めちゃくちゃ、わかりやすく説明してある。身近でよくあるケースがのっており、具体的でイメージしやすい。
今回は、立教大学大学院の問題からとりあげましたが、立教大学大学院の過去問として、他にも、うつ病に関するものをこちらの記事で、取り上げていますので、参考にしてください。
⇒意外と知らない!うつ病の発症のしくみー有力視されている3つの仮説【立教大大学院過去問】| 臨床心理士指定大学院入試対策
また、パーソナリティ障害としては、「自己愛性パーソナリティ障害」や、「反社会性パーソナリティ障害」についても、出題される可能性がありますので、そのあたりの特徴も覚えておきましょう。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
さて、次の記事は⇊⇊
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