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久しぶりの更新です。コロナ禍のなか、いかがお過ごしですか?
コロナの勢いが止まりませんね…….
不要不急の外出禁止が叫ばれる中、生活不安やストレス等から、家庭内でのDVや虐待のリスクの高まりが指摘されています。コロナ時代の子どもの発達が懸念されます。
さて、今回は、人の心の発達には、なくてはならない「愛着」についての問題を取り上げました。
愛着とは何か、また虐待などによって、愛着が奪われるとどうなってしまうのか、そういった問題を取り上げました。
子どもの心身の発達において、愛着対象との関係が重要視されている。下記の問いに答えなさい。
問 1 愛着とは何か説明しなさい。
問 2 虐待の世代間連鎖のメカニズムについて、内的ワーキングモデルの概念を用いて説明しなさい。
(2016年度 名古屋大学大学院)
論述問題で出題されることもあるので、愛着の研究の流れや、愛着の個人差、愛着の発達段階など、様々な面から勉強しておくことがおすすめです★
【ポイント】
・ボウルビー(Bowlby,J.)が提唱した愛着理論にのっとって説明すること
・愛着形成は、将来にわたり、個人の人間性を特徴づけるものであり、人格形成において重要。
・虐待をうけて育った子どもは、健全な愛着が形成されず、心の中核に深刻な負の影響を受ける。愛着が何故、人格形成において重要なのかという点を、内的ワーキングモデルと関連付けて説明できること。
愛着とは?(問1)
・イギリスの精神分析家 ボウルビー(Bowlby,J.) が提唱した愛着理論によると、愛着とは、ある特定の他者に対して強い結びつきを形成する人間の傾向のこと。
・乳児期に形成される、養育者、特に母親との情緒的な絆を土台にして維持されていく。
・厳密にいうと、子どもが安心感を得るために、養育者に対して情緒的絆を求めることが愛着(子どもから養育者への一方向)。一方で、養育者から子どもへの結びつきはボンディング(bonding)という。
愛着がきちんと形成されると?
愛着対象は、成長と共に内在化され、その後の対人関係の認知的枠組みである「内的ワーキングモデル」として機能する。
適切な愛着形成がなされると、愛着対象が傍がいなくても、人は安定した心の基盤(内的ワーキングモデル)を持つことができ、生涯、、自己に対しても他者に対しても、肯定的な世界観を持って生きていくことができるようになる。
愛着が形成されないとどうなる?
身体的、知的、情緒的、社会的などあらゆる面に負の影響を及ぼす。
・養育者が安全基地として機能せず、子どもは、安心して探索行動に出ることができないため、好奇心が育たず、健全な身体的、知的な発育がなされない。また他者への健全な応答性も乏しく、有能感も育ちにくい。
・健全な愛着が内在化されず、安定した対人関係をもつことが難しく、社会性に困難が生じる。
・虐待をうけた子どもには、愛着障害、心的外傷後ストレス障害などが認められる場合もあり、診断の有無にかかわらず、衝動性の高さ、情緒や行動上の問題が認められることが多い。(後述)
安全基地とは
ボウルビーの愛着理論における中心的概念。愛着を形成した子どもが探索行動をする際の養育者の役割のこと。
1歳前後の子どもは、母親から離れて外界へと探索行動が始まる。しかし、しばらくすると母親の元に戻り、愛情補給を行い、再び、探索行動を開始する。健全な愛着を形成していると、母親を安全基地にして探索活動を活発に行うことができる。探索行動は、知的、身体的、社会的な発達を促していく。このように、安全基地とは愛着の質を決定づける概念となる。
愛着の障害
愛着の障害は大きく2つにわけられる。こちらも覚えておこう。
【抑制型】 | 【脱抑制型】 |
人に近づくことへの不安、緊張、警戒が極端に強い。または、両価的で矛盾した反応(親しくし接近したかと思うと手を返したように回避するなど)を示す場合もある。 | 相手かわまず、接近したり、接し方が極端に馴れ馴れしいなどの無分別な社交性が特徴。 |
※DSM-5 では、「反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)」と、「脱抑制性対人交流障害」の 2 つに分類されています。前者が抑制型、後者が脱抑制型にあたります。
病理のある・なしを境界線で分けることは難しい。
このように書くと、健全な愛着が形成されている人、していない人、と2つに分かれるように受け取られしまうかもしれないけれど、実際は、愛着の質はスペクトラムであり、健全な愛着と、病理的な愛着を、きっちり区切ることは難しいと考えられます。
何かしら対人関係、家族関係に困難さがあったり、心のバランスがとりにくく生きにくさを感じている人の中には、育ちの中で、愛着形成が不十分だったということも多くあるかと思います。あくまで、健全な愛着形成と病理とは、連続体(スペクトラム)で考える視点が大事かなと思います。
さて、愛着形成の重要性がここまでで伝わったとは思いますが、さらに、愛着理論の考え方の根拠となる研究を2つ紹介します。
愛着理論の裏付けとなる2つの研究
ハーロウ(Harlow)の社会的隔離飼育実験
アメリカの心理学者、ハリー・フデレリック・ハーロウは、生後まもないアカゲザルの子どもを母ザルから隔離した実験を行った。(代理母実験)
隔離された仔ザルに、針金製&布製の2種類の母親模型をつくり、与えた。そして仔ザルを観察。
すると…..
★仔ザルは、哺乳に関係なく、布製の母を選び、それを活動拠点として探索行動に出た!
この研究からわかったこと⇒
1)愛着が形成されるのは、親が乳児の生理的欲求を充足するからではなく、愛情希求そのものから生じるのだという見解が導かれた。
2)生物学的な行動システムとして、人間には生まれたときから、特定の対象との間に情緒的絆を求めようとする愛着が備わっているのだということが示唆された。
さらに…..
★群れから隔離されて育った仔ザルには、成長して親ザルになったときに、性行為が難しく、出産しても適切な育児行動がとれない傾向がみられた。
この研究でわかったこと⇒
3)愛着が形成されないと、その後の仲間関係や異性関係、子育てにも支障をきたすことが示唆された。
ホスピタリズム(施設症)の研究
1950年代、戦禍のなか、児童養護施設に預けられた孤児たち(親との接触を断たれた子どもたち)に、医学的な処置や栄養のある食物を十分与えているのにもかかわらず、身体的な発育の遅れ、生き生きとした感情の喪失(無関心、無反応など)、知的発達の遅れなどの症状がみられた。(このような現象をホスピタリズムという。)
⇒ボウルビーは、その原因は母子相互作用が欠如し、愛着が形成されていないためと考えた。
これを「母性的養育の剥奪(マターナル・デプリベーション)」と呼んだ。
内的ワーキングモデルと虐待連鎖(問2)
世代間連鎖とは?
世代間連鎖とは、親子の関係性の質が、世代を超えて次世代から次世代へと、受け継がれていくこと。
そのメカニズムには、人のもつ内的ワーキングモデルが深く関わっている。
内的ワーキングモデルとは?(上にも書きましたがもう一度。。。)
・愛着対象との間で形成された関係性が内在化されたものである。
・乳幼児期に愛着対象との間で形成された心的表象である内的ワーキングモデルは、発達とともに特定の関係性を超えて、その後の対人関係全般に影響するほど、重要なものである。
・将来にわたり、その人の対人関係を構築する上での鋳型になり、類似した関係性の中では活性化される。
虐待などの不適切な養育を受けた場合は….
・被虐待経験に基づいて形成された、敵意と脅威に満ちた内的ワーキング・モデルが内在化される。
・その人が親になった時には、子どもとの間で、負の内的ワーキングモデルが活性化し、暴力や脅しなどの不適切な関わりが引き出される。
・こうして親子間の虐待-被虐待という関係性の質が,次世代に伝達され,養育関係の世代間連鎖が生まれる。
世代間連鎖を断ち切るためには…
被虐待体験をもつ人の内的ワーキングモデルが、成長していく中で良好なものへと修正されることが重要である。つまり、愛着の再形成。
そのためにできることとは…
1) 日常生活の中で、第三者(施設の職員、学校の先生、友人、配偶者など)との間で、十分な愛情やサポートを得ていくことが不可欠。自分が大切にされているという経験を積む。
2) 治療者との関係
治療者によって、養育者への怒りが受け止められ、理解され、治療者との人間関係が情緒的修正体験となる場合も。
3) 親が子どもと愛着を再形成できるようにしていく。(家族支援が重要)
と書きましたが、事は言うほどたやすくはありません。
とにかく、自分という存在がいかに大切にされ、適切に理解され、信じてもらっているという絆感覚、
根底のところでどれほど大切に愛されているのかを身をもって体験していくことが何より大切となります。
解答作成のヒント
問1
【序論】愛着とは?(定義)
【本論】愛着がなぜ人格形成に重要なのか、その根拠を明記。背景になる愛着理論を提示しつつ、筋道立てて述べる。
【結論】まとめ
問2
【序論】世代間伝達とは?内的ワーキングモデルとは?
【本論】被虐待体験をもつと、内的ワーキングモデルがどうなるのかを言及しつつ、世代間伝達がおきるメカニズムを書く。
【結論】世代間伝達を断ち切るためにはどうすれば?に触れてまとめる。
参考になれば幸いです。
補足
ということで、以上になります。先にも書きましたように、愛着については、受験で必須なので、多方面からの勉強が必要。この記事には書ききれませんでしたが、
- 愛着の個人差、エインズワース(Ainsworth,M.D.S.)のストレンジ・シチュエーション法
- ボウルビー(Bowlby,J.)の愛着の発達段階
さらには、
- マーラー(Mahler,M.S.)の分離個体化理論
- スターン(Stern,D.)の自己感の発達理論
- ウィニコット(Winnicott,D.W.)の発達理論
など母子関係の心理臨床学の源流になる考え方も余裕があれば、広げて勉強してみてください。
これらの理論は、言葉は違えど、乳幼児期に何が重要なのかは、共通していて、結局のところ養育者から適切な愛情を、身をもって実体験として十分に経験する事の重みが伝わってきます。
おすすめ書籍
ここまでお読みくださりありがとうございます。
以上、お役に立てれば幸いです。