ご訪問ありがとうございます。こんにゃろうです。
暑い日が続きますが、受験勉強のほうは順調に進んでいますでしょうか?今日は、読者様からリクエストを頂きまして、
心理尺度の作成の方法と手順について、1000字以内で具体的に説明しなさい(横浜国立大学大学院 2012年度)
この問題について解答してみたいと思います。(立教大学大学院でも2012年度に同じ問題が出題されています)
あなたが受験しようとする大学院の過去問に、研究法関連の論述問題が出されているのならば、この問題は必ずおさえておくべき頻出問題です。
まずは、研究法関連の頻出問題はどんな問題があるのかを見てみたいと思います。
研究法関連の頻出パターン
- 実験デザインを考えさせる問題(ある仮説を示して、これを検証するための研究計画を立てさせるというもの)
- 心理尺度の作成手順を述べさせる問題
- 事例研究とは何か?意義や長所短所について述べさせる問題
- 量的研究法と質的研究法の異同について述べさせる問題
- 研究倫理についての問題
ざっとこんなところでしょうか。
研究法は、文系の人間にとっては、どうしても苦手意識があります。でも、だからこそ、得意になっておけば、それだけライバルが少ないだけに有利となります。また受験できる大学院が増えることになります。研究法関連の頻出パターンは、臨床心理学専門科目に比べれば少ないし、パターンさえ頭に入れれておけば、意外と簡単に解けます。
その意外と簡単に解ける問題が………「心理尺度の作成手順に関する問題」なんです。出題されたらラッキーです。満点がとれるかもしれません 😆
では早速いきましょう。
心理尺度とは?
まず尺度っていうものが、わからない方もいると思うので、まずはそこから。
人間は身長●cmとか、体重●kgとかを測るとき、身長計とか体重計で測りますよね?では、人間の心理を測るにはどうしたらよいでしょう?
心理学では、身長計や体重計に代わるものとして 心理尺度というものを作って、人間の心理や性格を測定しようとします。
こんなのを見たことないですか?
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Q1. 私は友達を作るのが得意だ
- □とてもそう思う
- □ややそう思う
- □どちらでもない
- □あまりそう思わない
- □全くそう思わない
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このように、アンケートの回答が5段階式になっていて、どれかを選んで回答するというもの。これはリッカート法尺度といって、心理学研究法で最も多く用いられる心理尺度の形式です。
では、もう一つ質問を。
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Q2. 私は知らない人にも、気軽に声をかけることができる
- □とてもそう思う・・・・5点
- □ややそう思う・・・・・4点
- □どちらでもない・・・・3点
- □あまりそう思わない・・2点
- □全くそう思わない・・・1点
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さて、このQ1とQ2は、一体人間の、何を測ろうとしていると思いますか?
答えは「社交性」です。
誰かに回答してもらったら、上に書いたような得点(5点~1点)をつけて合計します。すると、社交性得点というものができます。Q1とQ2を合わせて、Aさんは、社交性得点10点、Bさんは5点だとすると、「Aさんのほうが社交性が高い」、ということができます。実際は、たったの2つの質問で「社交性」を測定するということはなく、もっと沢山の質問を作って測定します。
今回の「心理尺度の作成の方法と手順」の過去問は、こういった尺度(質問紙)をどうやって作ったらいいのですか?と聞いていることになります。大学の心理学部出身の人なら作ったことはあるかと思いますが、他学部から心理系大学院を目指す人は、やったことがないので知らないのではないでしょうか?でも大丈夫。このような問題を解くだけであれば、手順を理解して覚えさえすれば、解けます。
手順を頭に叩き込む
ここでは手順を頭に入れるために、想像力を豊かにして読んで見てください。こうやってこうやって。。次にこうやって。と頭で想像できるようにしましょう。例として今回は「社交性」を測定するための尺度を作るとします。対象者は、日本の大学生とします。
1、社交性ってそもそも何?を考える(測定目的の明確化)
社交性とは。。。。?(この「社会性」という概念のことを構成概念といいます)
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このような話し合いをして、社交性とは「人見知りをしないで、人との交流で上手に振る舞えること」という定義をつける。
2、項目の作成
じゃぁ、この「社交性」とやらを、どんな質問をすれば、測ることができるだろう?
質問をどんどん考えてみる
こんなことをやって、質問紙をとりあえず作ってみる。
じゃ~ん!
留意点
ここでチェック、質問紙の文がわかりやすいものになっているだろうか?
- 質問が2重になってはいないだろうか?(ダブルバーレル質問)例:✖「母親は優しくて強い」・・優しいが強くはない場合答えられない。
- 前に聞いた質問があとの質問を答える際に影響し、回答に歪みが出やすくなっていないだろうか?(キャリーオバー効果)例:「戦争で何人の人が犠牲になったと思いますか?」と聞いたあと「戦争に賛成ですか?反対ですか?」と質問するようなこと
3、予備調査
さっそく、仮に作った質問紙を、実際に対象者に配り、回答してもらう
留意点
- 今回、対象者は「日本の大学生」。この中からたったの数人を集めても、後の結果分析ができなくなってしまう。十分な量の対象者を集めること。
- 集める際には、日本の大学生の全員から、ランダムサンプリングを行って対象者を選ぶ。例えば、「東京都の大学生」だけを集めて結果をとったとしても、それは「東京都の大学生」の結果であり「日本の大学生」の結果ではありません。このように、母集団(この場合は「日本の大学生」)の特徴を偏りなく表せるようにランダムサンプリングをします(ランダムサンプリングについては以下に語句説明を載せております)しかし現実的にこれをやるのは無理なので、実際はしないです。けれども、大学院入試では、本来あるべき姿を書いて解答すること。「ランダムサンプリングをする」と書きましょう。(下の解答例参照)
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回答してもらったら、質問紙を回収
4、結果の分析
ど~ん!いよいよ、結果の分析です。
結果の分析では、この質問紙は、「社交性」ってものがちゃんと測定できる尺度なのか?使える尺度なのか?を検証します。
5、項目の修正
4で行った結果分析から、質問それぞれを見直し修正して質問紙を再編集する。
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3に戻って、再度データ収集
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再度、結果分析
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問題なければ、尺度の完成!。。。お疲れ様でした。
以上、いかがでしたでしょうか?この手順を頭に叩き込んだら……..
あとは解答用紙に解答を書くだけ!
解答のポイントはたったの2つ
- 尺度作成の流れに沿って書く。5段階にわけて順番に。
- 各段階での留意点を明記する
こんにゃろう風解答例
尺度作成の方法と手順は大きくわけて5段階に分けられる。測定目的の明確化、項目の作成、予備調査、結果の分析、項目の修正である。
第一に、測定目的の明確化においては、測定しようとしている構成概念がどのような意味内容なのかの定義を明確にしておく。ここでの留意点としては、これから作成する尺度が妥当であるためには、他のどんな心理尺度と相関が予想されるのかといった、妥当性の指標をも考えておく必要がある。
第二に、項目の作成においては、一部の測定対象者からのブレインストーミング、自由記述による調査や面接を行ったり、既存の尺度を調べたり、専門家の意見をも参考にして、暫定的項目を作成する。この際の留意点としては、表面的妥当性に留意し、言葉遣いや言い回しに注意し、ダブルバーレル質問、キャリーオバー効果があれば修正する。
第三に、予備調査においては、実際に対象者に質問紙を配布し、回答をしてもらい回収する。この際の留意点としては、尺度の一般化ができるように十分な量のデータを得ることが望ましい。また標本はランダムサンプリングによる抽出が行われることも必要である。
第四に、回収したデータの結果分析を行う。収集したデータの因子分析を行い、因子負荷量が極端に低い項目は排除し、測定したい構成概念の特徴をしっかりと示せる項目のみを残すようにする。また、個々の項目について、その項目得点の分布が、十分な個人差を反映しているかどうかといった、項目分析を行い、不適切な項目については排除する。さらに、信頼性と妥当性の確認を行う。信頼性の確認としては、時間をおいて再度測定しても結果が安定しているかを検証する再検査信頼性や、含まれる項目が同一の概念を測定しているかどうかを測定する内的整合性などから確認する。妥当性については、この尺度と関連のあると想定される類似した尺度との相関をみることで確かめられる収束的妥当性や、外的基準との関連を通して確かめられる基準関連妥当性などを確認する。
第五に、項目の修正である。第四の結果分析をもとに、不適切な項目を排除するなどし、項目を修正し質問紙を再編集する。もう一度、第3段階に戻り、データを収集し、第四、第五の手順を繰り返し、より確かな心理尺度を作成していく。
(あくまで、解答例ですので正解を保証するものではありません。)
黒い太字で示した専門用語の説明を簡単ですが、下記に載せました。
一緒に覚えておくべき専門用語
相関
複数の変数間の相互関係。一般的に2つの変数が同じような変化を示すとき相関があるという。
キャリーオバー効果
前の質問が次の質問に影響すること。
ダブルバーレル質問
1項目で同時に2つの内容を問われており、回答者が混乱する質問のこと。例えば「あなたは優しくて繊細だと思いますか。」
標本
母集団を推測するために用いる集団の一部のこと
ランダムサンプリング
母集団の特徴を偏りなくもつために、研究者の恣意なくして偶然の作用によって標本を母集団から抽出すること。
信頼性
偶然的要因によって尺度の得点が変化する度合いの少なさ
妥当性
尺度が測りたいものを適切にとらえているかの度合い
再検査信頼性
同じ被験者に対して一定機関をおいて同じテストを実施したときの相関係数として表現される信頼性のこと。
内的整合性
テストに含まれる項目全体が同一の心理学的特性に対する測定を実現している時に、そのテストを内的整合性の高いテストという。テストの等質性と呼ばれることもある。内的整合性を表す指標として、クロンバックのα(アルファ)係数が用いられる。
表面的妥当性
質問文の表現など、その尺度が測りたいものが回答者に伝わっているかどうかの度合い
収束的妥当性
同一の概念を2つの異なるテストで測定している場合の両者の関連によって示される妥当性。
基準関連妥当性
何らかの外的基準との相関係数によって示される妥当性。外的基準が測定する尺度と同時に得られる場合は併存的妥当性とよばれ、尺度の測定から一定期間を経て得られる場合は予測的妥当性と言われる。
項目分析
学力検査、知能検査、性格検査、質問紙調査などを作成する際、得た回答から各項目の善し悪しを検討すること。
因子分析
複数の観測変数の背後に共通して存在する少数の因子を発見することを目的とした多変量解析のひとつ。
*上記の語句説明については、一部、有斐閣『心理学辞典』を参考にさせて頂きました。
おすすめ書籍
まとめ
心理尺度の方法と手順
- ①測定目的の明確化 ②項目の作成 ③予備調査 ④結果の分析 ⑤項目の修正 の5段階流れを頭に叩き込む
- 解答するときは、順序立てて書いていき、各段階での留意点を忘れずに書くこと。
- 頻出問題につき、研究法を出題する大学院を受験する方は、解答を覚えてしまおう。出題されたらラッキー。満点がとれるかもしれません!
以上、いかがだったでしょうか?少し専門用語が出てきて、わかりにくなぁと思う方もいらっしゃるかもしれません。一方で、勉強がすすんでいて、もっといい解答ができるよ、という方もいらっしゃるかもしれません。いずれにしても、この頻出問題、ぜひモノにしてくださいね。
さて、次回は、今回の研究法とはうってかわって、心理療法のひとつである精神分析に関する過去問分析です。
【過去問分析】精神分析ー転移とは|臨床心理士指定大学院入試対策